タイカンターボGTの衝撃 – 911を手放してまで所有したい魅力とは?(後編)

タイカンターボGT ヴァイザッハパッケージ
ポルシェの魅力

※この記事は前編の続きです。未読の方はまず「タイカンターボGTが変えた、わが家のラインナップ(前編)」からお読みください。

タイカンターボGTの衝撃 – 911を手放してまで所有したい魅力とは?(前編)

EVパワートレインの真価

「結局パワーがあるから面白いだけでは?」—この疑問は当然だが、タイカンターボGTの魅力はそこではない。

確かに1000馬力以上を誇るが、その価値は単純な最高出力数値にあるのではない。このことはテスラをはじめ、どんなハイパワーEVにも言えることだ。

ガソリンエンジン車との決定的な違いがここにある。
従来のハイパワーマシンは、パワーが上がるほど扱いにくさやターボラグといった課題が生じる。極低速からの発進や交差点での再加速時に、ドライバーの意思に反して遅れが生じることがある。また、その性能を引き出すには、ある程度の回転数を維持して走る必要があり、一般道ではそれが出来る環境を探すのに苦労し、結局はストレスと苦痛になりがちだ。

タイカンターボGT ヴァイザッハパッケージ

対照的に、タイカンは電気自動車ならではの特性により、1000馬力のうち必要な分だけを瞬時に引き出せる。100馬力だけ使いたい、50馬力だけ欲しいといった微細な制御が右足一つで可能だ。しかもそのレスポンスは、潜在的に1000馬力のポテンシャルを持つモーターならではの気持ち良さがある。回転の上昇など待つ必要はなく、全域がパワーバンドだ。

タイカンの真の魅力は、サーキットやワインディングでの速さだけではない。本質的な価値は、サーキットで味わうような気持ちよさや楽しさを、そのまま街中で体感できることにある。鬼のような加速というより、一つ一つの挙動が低速域からパワーに満ち溢れ、レスポンスが異常に気持ち良い点だ。

人間の意志と直結しているかのように動く感覚は、EVならではの特性であり、タイカンの最大の強みと言える。

サウンドとブレーキの素晴らしい完成度

電気自動車で音が良い、というと懐疑的な反応も理解できる。

フェイク(人工)サウンドが本物のエンジン音に勝るはずがないと思うのは自然だ。しかし、タイカンターボGTのサウンドは素晴らしく魅力的だ。スポーツエレクトリックサウンドをオフにしていても、フォーミュラEの走行音を抑えめにアレンジしたような深い響きが心地よい。高速道路も街中も、この音色が走りの気分を盛り上げてくれる。

スポーツエレクトリックサウンドをオンにすると、車内に迫力ある音が響き、外部にも聞こえる爆音を発する。ターボGTの音は普通のタイカンと全く違う。停車中からも「グーン」という音が周囲に広がり、2速へのシフトアップ時やコーナーでブレーキを踏んだ時のシフトダウンの変速サウンドも実に気持ち良い。

911カレラ4GTSの派手なバブリングのような爆音も素晴らしいが、タイカンターボGTのエレクトリックサウンドもそれに引けを取らない魅力がある。

タイカンターボGT ヴァイザッハパッケージ

ブレーキシステムも特筆に値する。

PCCBセラミックブレーキを装備しているが、タイカンの場合はそれ以上に回生ブレーキの完成度が高い。このブレーキ感覚が非常にコントロールしやすく、ポルシェの技術力の高さを実感させる。メーターでは回生ブレーキと物理ブレーキの使用割合が表示されるが、一般道では90%以上が回生ブレーキでまかなわれる。

多くの人が想像する、EVは重いのでブレーキに厳しいという思い込みは全くの逆で、ほとんどブレーキは減らないのだ。

そして、2.2トンという車重を感じさせない俊敏さは驚異的だ。

マクラーレンのような動きをするため、重量感をほとんど感じない。唯一、富士スピードウェイの100Rコーナーを走った時に、慣性重量の大きさを実感したが、むしろタイトコーナーでは、ボクスターより軽快ではないかと思わせる走りを見せる。たとえば、タイトで細い宝塚から六甲山へ上がる兵庫県道16号線ですら、超軽快に楽しく走れ、完全にボクスターを凌駕する楽しい走りが可能だ。

タイカンターボGT ヴァイザッハパッケージでのドライブ

価値観を変えるクルマ

タイカンターボGTは、既存のポルシェオーナーの価値観さえも揺るがす存在だ。

これまで何人かのポルシェオーナーに試乗してもらったが、全員が口を揃えて「すごい!」「今までの価値観が変わる」と語る。自分のポルシェに乗ることがアホらしく思えるほどの衝撃を受け、「なぜこれが試乗車に無いのか?みんな乗ったら買うんじゃないか?」という感想まで飛び出すほどだ。

これは単なる社交辞令ではなく、心の底からの驚きの表明だ。

多くのポルシェオーナーが試乗後に無言になり、「言葉が見つからない」と口にする。「今までの価値観が何だったのだろう」という反応は、タイカンターボGTが単なる進化ではなく、パラダイムシフトをもたらしていることの証だろう。

タイカンターボGT ヴァイザッハパッケージ

私自身、自分の購入したクルマを過度に称賛してしまっている可能性は認識している。しかし、それを差し引いても、911を売却してまでタイカンターボGTに乗り続けたいと思わせる魅力があるのは確かだ。

これは単なる電動化への移行ではなく、ポルシェが培ってきたスポーツカーの本質を、次の時代へと進化させた結果なのだと思う。

その凝り固まったEVへの偏見と、タイカンに抱いているイメージをリセットして、ポルシェ乗りなら一度は味わってほしい珠玉の一台である。

Hiro

Minaの夫です。 ファッションやステータスシンボルのためにクルマは乗りません。運転して楽しく、工業製品として優れ、作り手の意思が感じられるようなクルマを好...

プロフィール

このブログが気に入ったらフォローしてね!

コメントを閉じる
  • コメント ( 2 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. のに

    いつも楽しく拝読しています。

    先日伺ったPCでも、有名ブロガーが絶賛されています、としてターボGTを
    紹介してくれました。よっぽどすごいのでしょうね。是非一度乗ってみたいです。

    981ボクスターGTS、TurboGT、718SpyderRSが長期に渡り共存することは
    難しいのでは?と心配しています。っていうか、興味津々です。レポートを
    楽しみにしております。

    我が家には718BoxsterGTS4.0MT、718SpyderRSがありますが、ついに
    992.1TurboSを迎えることになりました。長期に3台のポルシェを維持することは
    我が家では困難です。とりあえずどちらかの718を手放すことになりそうです。
    己の欲望の撒いた種とはいえ、悩みは尽きません。

  2. イシ

    以前から『いつかはタイカン』と考えていましたが、中古市場の在庫が豊富なことと、今年別の車の納車を控えているため、購入はその後のタイミングになりそうです。グレードは主に4Sを検討していますが、ターボGTを経験されたHiroさんの視点から、他のグレードへの印象にどのような変化があったか興味があります。お時間があるときに、そのあたりの見解を記事にしていただけると嬉しいです。