ポルシェ911 GT3エンジンの歴史を振り返る

997GT3メーター
ポルシェ・911

私にとってのGT3といえば、991.2のGT3ツーリングパッケージだ。
数年前に購入し、GT3への憧れだけで買ったものの、そのあまりに高性能さに感動した一方で、一般道で十分にアクセルを踏んで楽しめないストレスで、約1年半程で手放してしまった。

売却したことに後悔はしていないものの、そのGT3エンジンは今でも、もう一度味わいたいな、と思うことはよくある。

今回、そのGT3のエンジンに特化して、そのエンジンの歴史を簡単ではあるがまとめてみたので、共有したいと思う。

歴代GT3のエンジンスペック

モデル (型式) 排気量 最高出力 最大トルク レブリミット
996.1 GT3 (1999) 3,600cc 360PS (265kW)​ 370Nm​ 8,000rpm
996.2 GT3 (2003) 3,600cc 381PS (280kW)​ 385Nm​ 8,200rpm
996 GT3 RS (2004) 3,600cc 381PS (280kW)​ 385Nm 8,200rpm
997.1 GT3 (2006) 3,600cc 415PS (305kW)​ 405Nm​ 8,400rpm​
997.1 GT3 RS (2007) 3,600cc 415PS (305kW)​ 405Nm​ 8,400rpm​
997.2 GT3 (2009) 3,800cc 435PS (320kW)​ 430Nm​ 8,500rpm​
997.2 GT3 RS (2010) 3,800cc 450PS (331kW)​ 430Nm​ 8,500rpm​
997 GT3 RS 4.0 (2011) 3,996cc 500PS (368kW)​ 460Nm​ 8,500rpm​
991.1 GT3 (2013) 3,800cc 475PS (349kW)​ 440Nm​ 9,000rpm​
991.1 GT3 RS (2015) 3,996cc 500PS (368kW)​ 460Nm​ 9,000rpm
991.2 GT3 (2017) 3,996cc 500PS (368kW)​ 460Nm​ 9,000rpm​
991.2 GT3 RS (2018) 3,996cc 520PS (382kW)​ 470Nm​ 9,000rpm
992.1 GT3 (2021) 3,996cc 510PS (375kW)​ 470Nm​ 9,000rpm​
992.1 GT3 RS (2022) 3,996cc 525PS (386kW)​ 465Nm​ 9,000rpm​
992.2 GT3 (2024) 3,996cc 510PS (375kW)​ 450Nm​ 9,000rpm​

こうしてみると、初代GT3は360ps程しかなく、これは現在のカレラよりもパワーは低く、加速力では負けてしまうだろう。
とはいえ、実際に996のGT3を走らせてみると、現代のカレラとは全く違うエンジン特性で、その回転の上昇スピードや官能性は目を見張るものがある。

それから、約25年程で、モデルを追うごとにパワーアップを果たし500psを超えるまでになった。そして、今回の992後期のGT3で初めて、少しトルクが下がっている。これは環境規制の影響と言われている。

ポルシェ911GT3(996)

GT3エンジンの歴史

このように歴代GT3/GT3 RSのエンジンは、各世代で着実に進化を遂げてきているが、その過程をまとめると以下の通りだ。

 メツガーエンジンの時代 (996/997)

初代~2代目GT3はハンス・メツガー設計のレース由来エンジンを搭載している。

空冷911やル・マンカー(962/GT1)直系のクランクケースを用いた堅牢な構造で、外部タンク式ドライサンプ潤滑、鍛造・軽量部品の多用による高回転耐性が特徴。
排気量は当初3.6Lで、997後期で3.8L、最終的に4.0Lまで拡大。吸気には可変長インテーク(バリオラム的システム)とバリオカム(可変バルブタイミング)を組み合わせ、中低速トルクを確保しつつ7,000rpm超の高回転まで一気に吹け上がるフィーリングを実現したとされる。
圧縮比は11.7:1から始まり、997.2以降は12:1超に達し、特に997 GT3 RS 4.0では4.0L・500PSを達成し、1Lあたり125PSという驚異的な出力密度を誇っている。
メツガーエンジンは一貫してポート噴射を採用し、電子制御も後期には洗練されましたが、基本設計はモータースポーツ直系ゆえに非常に頑丈で信頼性が高く、「NAの究極形」と称されているのが特徴だ。

997GT3のエンジン

GT1クランクを持つメッツガーエンジン

新世代直噴エンジンの時代 (991/992)

3代目991 GT3からはエンジン設計が刷新され、ポルシェの量産直噴フラット6(9A1型)をベースにGT3専用チューンを施したユニットに移行。

これにより圧縮比はさらに向上(991.1で12.9:1、991.2で13.3:1)し、燃焼効率と出力が大幅に改善。
直噴化に伴いピストンクーリングやノッキング制御が強化され、高圧縮比でも安定した高回転燃焼が可能となっている。991では可変バルブタイミングが吸排気両側(バリオカム)に拡大され、可変リフト機構(バリオカムプラス)も組み合わされている。

ポルシェ911 GT3(991)

潤滑系は従来の外部タンク式からエンジン内蔵型のドライサンプに変更されたが、依然7基の回収ポンプを持つ本格的なもので、高い横G下でも油圧を維持する仕組みになっている。
991.1(3.8L)で9000rpm・475PSを達成し、991.2(4.0L)では500PSに到達。また991世代からはPDKの採用や後輪操舵の導入などもあり、エンジン出力を確実に路面に活かす車両制御面の進化も特徴的だ。
そして、992 GT3では6連スロットルなどさらなるレーシーな改良で510PSまで向上し、レスポンスも歴代最高となりました。結果、NAエンジンながらニュルブルクリンクで7分切りを果たすなど、その性能はターボモデルにも匹敵する域に達しています。

GT3 RSの差別化

各世代でGT3 RSは基本的にGT3のエンジンを踏襲しつつ、高回転域重視のチューニングや吸排気の最適化、さらなる軽量化で性能を向上させている。

GT3RS

996/997前期では出力据え置きだったが、997後期以降はRSで僅かながら出力向上(+15〜20PS)を実現 。
特に排気量拡大版の「RS 4.0」は997と991の二世代にわたり登場し、いずれも500PSの大台に達している。RSでは高回転型のカムプロフィール採用や可動部の軽量化によりレブリミット付近での吹け上がりをさらに研ぎ澄まし、サーキット走行における僅かなタイム差を追求している。また近年の992 GT3 RSではエンジン自体の差別化は小さいものの、空力やシャシー面でGT3との性能差を大きく広げており、結果として周回タイムに大きなアドバンテージを持たせており、シャシー側の進化も大きいのが特徴だ。


こうしてみると、911 GT3/GT3 RSのエンジンは一貫して「自然吸気・高回転・高出力」という哲学を守り抜きながら、各世代で材料技術や電子制御、吸排気システムを進化させることで出力と信頼性を両立させてきている。996の誕生から約25年以上を経た現在でも、その4.0Lフラット6エンジンは最高9,000rpmに達し、リッター当たり125PS超という驚異的スペックを実現しているのは特筆に値するだろう。

ポルシェ911GT3ツーリング

これはポルシェのエンジニアリングとモータースポーツからのフィードバックの賜物であり、911 GT3が「公道を走れるレーシングカー」と称される所以となっている。環境規制が叫ばれる現代において、今後もこの伝統がどのように進化していくのか、個人的にも大いに注目だ。

Hiro

Minaの夫です。 ファッションやステータスシンボルのためにクルマは乗りません。運転して楽しく、工業製品として優れ、作り手の意思が感じられるようなクルマを好...

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