至高のV10エンジン!BMW M5(E60)に試乗

BMW M5
レビュー・試乗記

BMW M5

BMWが好きだという話は、以前から何度か書いているが、その中でも昔、とても憧れていたクルマがある。

それはE60のM5だ。当時、街中で稀に見かけるM5やM6を見ては「何をどうやったらあんなクルマに乗れるのだろう?」と指をくわえて見ていた記憶がある。そのくらい自分にとっては高嶺の花で、憧れだった存在だ。

BMW M5(E60)

ファーストインプレッション

今回、2007年式のBMW M5に試乗させていただく機会を得た。このクルマの特徴は何と言ってもフロントに鎮座するV10エンジンだ。発売当時はBMWがF1で全盛期の頃で、そのテクノロジーを惜しみなく導入したエンジンになる。

5リッターのV10エンジンは、507ps/7,750rpmで発生し、トルクは53.0kgm/6,100rpmと今では考えられないほどの高回転型エンジンだ。レッドゾーンは8250rpm付近にあり、そのポテンシャルの凄さが伺い知れる。

BMW V10エンジン

クルマに乗り込み、スタートボタンを押すとエンジンは比較的静かに始動する。V10エンジンから想像するような猛々しさはほとんど感じない。普通の5シリーズよりは、少し大きめかな、といったくらいだ。

トランスミッションは当時のBMWではスポーツモデルにのみ導入されていたSMG(SMGⅢ)であり、Sequential Manual Gearboxの頭文字からきているそうだ。現代のPDKなどのDCT系のトランスミッションとは違い、いわゆる「セミオートマ」であり、クラッチ操作を自動で行ってくれるマニュアル・トランスミッションである。

SMGについては、変速ショックが大きいとか壊れると修理代が高いなどの情報はよく聞いていたが、発進に関しては特にショックがあるとか、そんなことはない。クラッチ操作が上手な人が発進するかのようにスムーズにクルマは走り出す。

BMW M5 SMG

少し1速で引っ張り気味な感じで2速へとギアが変わる。その際、クラッチが切れることによるトルクの抜け感で頭がやや前に動く。これは変速ショックというより、単なるトルク変動による揺れであり、昔の程度の悪いATのようにガツンとくるような、いわゆる『ショック』の類ではない。

ちょうどアバルトの595のATと似たようなフィーリングだ。

意外と普通に走れるなぁ、と思いながら、まずはノーマルモードでゆっくりと流してみる。

V10エンジンであることはほとんど分からず、ややスポーティーさの強いスポーツセダンといった印象だ。乗り心地は良く、暴力的なパワーもそんなに感じないし、ステアリングの応答性もスポーティーな部類ではあるが、総じてマイルドな印象で、私が持つM5のイメージからするとずっと大人しいクルマに感じていた。

少し下りのコーナーや、タイトコーナーでは、ややV10エンジンの重さも感じる場面もあり、さすがにこういう日本のタイトな山道には合わないセッティングなのかな、と思いながら駆け抜けていった。

V10エンジンを解き放て

次はMボタンを押して、Mダイナミックモードに変更する。400psに抑えられていたエンジンは507psになり、サスペンションはグッと引き締まる。鎖を外した猛獣のようにM5は豹変する。

BMW M5のMボタン

BMW M5のマフラー

まずコーナリングのしやすさが全然違う。少しフロントが重いかな、なんて思ってたのが嘘のようだ。全く鈍重さが打ち消され、タイヤの接地感は大幅に高まる。安定した姿勢で、グイグイ曲がっていく様はとても痛快だ。

タコメーターの針はちょうど12時前後を指して、駆け抜ける。とても扱いやすく、かつ、素晴らしい音色だ。この個体はワンオフのマフラーに交換されているので、ノーマルの音色が分からないが、このマフラーはとてもジェントルな音量と音質で、非常に気持ちがいい。

超高回転エンジンだが、GT3のように「もっと回せ!」とクルマがせがんでくるようなことも無く、一般道で回転を中回転域に留めてスポーティーに走り回っても十分に楽しめるクルマだ。

BMW M5

Mダイナミックモードでは、変速スピードも早まる。とはいえ、セミオートマなのでポルシェのPDKなどのDCTに比べると、ここは正直遅い。変速時のトルクの谷は明確にあり、その都度、首が少し揺れてしまう。

おそらく、アクセルの踏み方をもう少し合わせればもっとスムーズにいくのかもしれないが、そこまで試す余裕が無かったのが少し心残りだ。

慣れないSMGで、ちょっとギクシャクした走りになってしまったが、そうは言ってもカーブを曲がるのがとても楽しい。スピードがあがるにつれ、どんどんクルマが小さくなるような感覚で、パナメーラのそれに近いものがある。

BMW M5のホイール

直線で、少しアクセルを深く踏み込んでみた。

すると、一気にタコメーターの針は跳ね上がり、6500rpm付近からだろうか、二段ロケットのようにさらに針の動きに力強さが出てくる。加速Gもさることながら、粒の揃ったV10サウンドがドライバーの感情を容赦なく刺激する。

8000rpmを目指し、回転の伸びが衰えるどころか、さらに回ろうとするのだ。この時の感覚は、ちょっと狂気や怖さすら感じる。まさにポルシェでいうGT3エンジンの高回転域の感覚と同じだ。

BMW M5のメーターパネル

世の中には高回転型のエンジンはたくさんある。私も数々のエンジンを経験しているが、最後の1000~2000rpmで加速度的に回転スピードが高まるエンジンというのはなかなか少ない。多くはやや回転上昇のスピードが鈍ったり、少し息切れしたような音になるエンジンが大半だ。

そんな中、このM5のV10エンジンは、素晴らしい回転上昇のフィーリングを味あわせくれる。これぞドラマチックなエンジンと言ってよい。低回転では大人しくトルクフル、中回転域ではエンジンを回して走る楽しさを味あわせてくれ、そして、最後の高回転域では狂気ともいうべき回転フィーリングでフィナーレを迎える。

手に入れるなら今か?

まさにドイツの至宝。素晴らしいエンジンだ。バイエルンのエンジン屋(BMW = Bayerische Motoren Werke)の名に恥じない名機だと思う。

もう今では環境規制、騒音規制などでこのようなエンジンを発売することはできない世の中になってしまった。

M5

まだ中古車市場にはこの宝が安い値段で眠っている。記事の執筆時点のカーセンサーにはわずか5台。177万円~465万円で販売されているようだ。

もちろん年式の割には割高かもしれないし、維持費や修理代もかかることだろう。オーナーさんによると、買われた時はもっと安かったそうで、今は徐々に高くなっているとのこと。

後にも先にもBMWのこのV10エンジンはこれだけだ。もし興味がある方は、本当に手に入らなくなる前に購入しておいても損はしないのではないだろうか。少なくともこのエンジンだけでも、その値段を払う価値はあると思う。それくらい素晴らしいクルマだった。

Hiro

Minaの夫です。 ファッションやステータスシンボルのためにクルマは乗りません。運転して楽しく、工業製品として優れ、作り手の意思が感じられるようなクルマを好...

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  • コメント ( 4 )

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  1. Nak

    こんにちは。

    M5のV10は官能的なエキゾーストが魅力ですね。
    回すとリッター2キロしか走りませんけど。
    ただ、このSMGは壊れない人が誰一人いなかったので、中古で買う時にはその分を
    覚悟しておかないと厳しいと思います。
    今でもパーツが出るか微妙ですが・・・・
    昔、中古のMTの並行を買おうとしたことがあるのですが、迷っているうちに売れてしまって
    もはや見かけなくなりました。
    うちは今2ドアしかないので、今でもMTがあれば欲しいですね。

    • HiroHiro

      こんにちは。
      確か、アメリカにMT仕様があるんですよね。
      私ももしそんな並行物があれば、飛びつくかもしれません^_^

  2. AYA

    初めまして。いつもブログで勉強させていただいています。
    元M6オーナーですが、SMG10万キロ以上壊れない事例も結構ありますし、修理費100万というのも当時AT免許でも乗れると言ってディーラーが売りまくりずっとオートモードで乗って故障→新車保証でアッセンブリー交換の価格です。
    ポルシェのサーキット走行で有名?なCheckShop大塚さんも出ない部品はオリジナルで製作してオーバーホールしても80万と仰っています。

    都市伝説とまでは言いませんが実際のオーナーさんは修理一発100万とは言わないと思います。

    ツイッターのリプライも見ていて悲しくなったのでつい書かせていただきましたm(_ _)m

    • HiroHiro

      こんにちは。
      貴重な情報をありがとうございます。
      実際にはそこまでは費用はかからないのですね^ ^
      それに、そんなに壊れないのであれば、安心ですね!