ポルシェクラシック・レストアチャレンジ2024：栄光の瞬間

2024年10月10日、ロサンゼルスの空に歓声が響き渡った。
ポルシェカーズノースアメリカ（PCNA）が主催する「ポルシェクラシック・レストアチャレンジ2024」の champions が遂に決定したのだ。この栄誉に輝いたのは、Porsche Englewood、Porsche Louisville、そしてGaudin Porsche of Las Vegas の3社。彼らの卓越した技術と情熱が、クラシックポルシェの魅力を現代に蘇らせた。

今年で4回目を迎えるこの挑戦的なイベントは、アメリカ全土のポルシェセンターに参加の機会を提供。「Preservation（保存）」「Restoration（復元）」「Individualization（個性化）」の3カテゴリーで競われ、今回初めて3つのカテゴリー勝者の中からグランドナショナルチャンピオンが選出された。さらに、一般投票と業界の専門家による審査で「ピープルズチョイス賞」も決定。この熱気溢れる競争の舞台裏に迫ってみる。

Individualization＆グランドナショナルチャンピオン：Porsche Englewoodの挑戦

Porsche Englewoodが手がけたのは、1985年製911カレラをベースにした「1971 McQueen Gulf #20 S/T」トリビュートカー。この作品は、映画「栄光のル・マン」（1971年）に登場するスティーブ・マックイーンの917を、1971年のニュルブルクリンクS/Tレースカーとして再解釈したものだ。

彼らのコンセプトは「もしスティーブ・マックイーンが917ではなく911 S/Tを走らせていたら？」という大胆な発想から生まれた。日常でも使え、なおかつサーキットでも走れるクルマを目指し、純正ポルシェパーツとポルシェモータースポーツカタログからの厳選パーツを組み合わせ、最高のエンハンスメントを施した。

964エンジンを3.8Lにアップグレードし、内部スロットルボディを採用。トランスミッションには油圧クラッチを搭載し、1速から4速までのギアを短縮して加速性能を向上させた。外観も大胆に変更。手描きのストライプを施したカスタムリバリー、ワイド化されたフェンダー、タックインバンパーが特徴的だ。

インテリアもアルカンターラのヘッドライナー、ペピータ柄のシートとダッシュパッド、カスタムステアリングホイール、そしてアップグレードされたポルシェクラシックPCCMラジオを装備。まさにビジョンから勝利へと導かれた911マックイーントリビュートの誕生だ。

Restoration＆ピープルズチョイス：Porsche Louisvilleの挑戦

Porsche Louisvilleが手がけたのは、1977年製ポルシェ930ターボ。初代オーナーの遺産整理から入手したこのクルマは、15年間動いていない状態だった。大胆な燃えるようなオレンジ色、ペルーレッドで仕上げられたこのクルマの復活は、まさにレストアの真髄を体現するものだった。

長期間眠っていたクルマを蘇らせるため、全ての液体を抜き、エンジン内部の損傷チェック、配線からサスペンションまで徹底的に点検。隠れた問題がクルマのパフォーマンスに影響を与えないよう、各コンポーネントを慎重に精査した。

エンジンは完全に再構築され、1977年当時のオリジナルな性能仕様に合わせて調整。サスペンションも全面的に再構築し、930ターボの特徴である鋭いハンドリングと精密な走行ダイナミクスを復活させた。電気系統も全面的に見直し、すべてのコンポーネントが確実に作動するよう調整。

機械、電気、インテリアのすべての側面に対処した後、クルマは完全に分解され、オリジナルのペルーレッドで再塗装。その鮮やかで人目を引く外観を取り戻した。まさにペルーレッドの復活、Louisvilleの受賞作品930の誕生だ。

Preservation：Gaudin Porsche of Las Vegasの挑戦

この物語は1997年、ラスベガスのある家族が1986年製ポルシェ911ターボルック（M491）カブリオレ（ターボスポイラー付き）を購入したところから始まる。しかし、このクルマがGaudin Porscheに到着するまで、その真の姿は明らかにならなかった。実はこの1986年911カレラターボルックは、元々M491タルガとして生まれていたのだ。

チームは、このクルマを本来の姿に戻すことに挑戦。エンジンの健康状態を確認するため、圧縮/リークダウンテストを実施し、燃料系統全体を清掃、インジェクターのフローテストを行った。その後、アンダーキャリッジとすべてのサスペンションコンポーネントをドライアイスブラストで清掃し、38年分の路面の汚れを除去。

摩耗した社外ショックをポルシェ純正ターボルックショックに交換し、エンジンはポルシェ純正ピストンリングで再シールし、シリンダーヘッドを再仕上げ。インテリアは完全に剥がし、カーペットとレザーを蒸気洗浄して再生処理を施した。

ドナーから入手したタルガバーを細心の注意を払って測定し、適切にフィットするよう溶接で取り付け。リアガラスの取り付けには4人がかりで数百ポンドの力を要した。フロントとリアのレンズはポルシェ純正パーツに交換し、劣化していたボディ周りのゴムモールディングも新品に。社外ホイールはOriginale 2に見られるポルシェ純正フックスホイールに交換された。

最後に、オリジナルのミラーフィニッシュを取り戻すため、徹底的なペイント修正を完了。これでGaudin Porscheは2年連続で保存カテゴリーでの勝利を収めた。昨年のRennsport Reunion 7でもピープルズチョイスを獲得している。

ポルシェクラシックの未来：技術と情熱の融合

今年のコンテストには58台のポルシェが参加。レストアチャレンジに参加するクルマは、80,000以上のポルシェクラシック純正パーツを駆使できるポルシェ訓練を受けた技術者たちの手によって作業が行われる。アメリカは世界で最も多くのクラシックポルシェが存在する市場だ。アトランタのワンポルシェドライブに隣接するポルシェクラシックの米国本部は、すべてのクラシックモデルに対するファクトリーレストアサービスと、すべてのポルシェモデルに対するゾンダーヴンシュ（特別注文）ファクトリープログラムを提供している。

このチャレンジは単なるコンテスト以上の意味を持つ。それは、ポルシェの歴史と革新、そして未来への橋渡しなのだ。クラシックな魂に最新の技術を吹き込み、時代を超えて愛されるクルマを生み出す。ポルシェオーナーや、ポルシェ乗りの方々にとって、これらのレストアされたクルマは単なる乗り物以上の存在だ。それは、時を越えた情熱の結晶であり、ポルシェの魂そのものなのだ。

今回のチャレンジで示された技術と情熱は、今後のポルシェの発展に大きな影響を与えるのではないだろうか。これからも続くポルシェの革新と伝統の融合を、心躍らせながら見守っていきたい。