ポルシェ911の原点!ショートホイールベースのナローを駆る!
公開日:
コンテンツ
ポルシェ911の原点
私が今まで乗ったポルシェ911の中で、最もプリミティブな911。それが今回、試乗する機会にめぐまれた1967年製の911Sだ。
バハマイエローで彩られた個体は、その凛とした佇まいから特別なオーラを放っている。このクルマの歩んできた歴史が、そう思わせるのだろう。まだ走行距離は21,000kmほどの極上車両。ちょっとやそっとのクラシックカーとは風格が違う。
それもそのはず、聞くところによると某有名バレエダンサーが所有されていた個体だそうだ。
ポルシェ定番のフックス製の鍛造アルミを履き、ベンチレーテッドのブレーキディスクはSである特徴だ。1991ccの空冷フラット6からは160psを発生し、当時としてはかなりのハイパワー車だ。
そして何よりこの911の最大の特徴は、ショートホイールベースの911だということだ。1964年の誕生から1968年までの911のホイールベースは2211mmしかなく、回頭性やコーナリング性能を重視して作られたのだが、一方で安定性や操作性の面での課題も指摘され、これ以降の1969年のモデルイヤー以降は、アウトバーンでの高速走行時の安定性向上や、操縦性の向上を目指しホイールベースが2268mmに伸長されている。
よって、このショートホイールベースの911は、初期の911のアイコンともなっており、今ではその操縦性の敷居の高さなどから逆に熱狂的なファンがいるモデルである。
ショートホイールベースのナロー・ポルシェを駆る
エンジン
左側(ドア側)にキーの差し込み口があるのは、この頃から続くポルシェの伝統。最近のクルマのように軽くキーをひねるだけでは、そう簡単に2リッターのフラット6は起きてくれない。少しアクセルをあおりながら、やや長めのクランキングを経てエンジンは目覚める。
始動直後はまだ回転が安定しないが、走り出してしまえば、特に問題はない。”蜂蜜をスプーンで掻き回すような” と表現されるシフトを1速に放り込む。クラッチの繋がる位置こそ慣れが必要だが、一度分かってしまえば、そんなに難しくはない。
今の車に比べれば、エンジンのトルクこそ細いものの、回転を上げていくとわずか1000kgほどのボディを軽快に走らせる。とにかく音がいい。
素晴らしいメカニカルノイズと、吸気音、そして排気音。回転数が低い時は低音で、回転数が上がるにしたがい高音へと滑らかに変わっていく。
昨今のターボ化されてしまった911のエンジン音にはない音域の広さが、気分を高揚させる。
シフトレバー
グニュッっとした感覚のシフトレバーを放り込み、3速、4速と変速していく。シフトノブは明らかに長く、こんなに長かったらスポーティーに変速できないのでは?と思われるかもしれない。
私もこの辺りのクラシックな911を体験するまでは、そう思っていた。
しかし、いろいろとポルシェを経験する中で、シフトの長さというのは、クルマの操縦性のバランスに大きな意味を持つ。たとえば、現代のポルシェでいうと、スパイダーやGT4、GT3のショートストロークのシフトレバーは確かにコクコクと入り、とても気持ちがいい。
一方で、形状こそ同じももの私の981ボクスターはそれよりもわずかに長いシフトになっているのだ。
最初、なぜ同時期のクルマなのにシフトの長さに差をつけるのだろう?と思い、自分のボクスターのシフトをGT4のショートシフトに換装しようとさえ思ったこともあった。
しかし、各車を何度も乗り比べていると、GT3やスパイダーのようなカチッとした俊敏な動きにはあの短さのシフトが合い、ボクスターのそれに比べたら少しマイルドで『しなり』のある足回りには、このロングストロークのレバーの方が、走行リズム的に合っているということを理解できるようになったのだ。
素早く操作できることも重要だが、それよりも、そのリズム感が合った時にクルマ全体の『調律』が合い、ドライバーはとても気持ちいいという感覚になれる。
今回の911もまさにその『調律』が合っている。エンジンのパワー、回転フィーリング、足まわりの接地感、俊敏性、クルマの全てがこのシフトレバーとよく合っている。
このストローク、このフィーリングがあってこそ、クルマ全体のバランスが成り立っている。
なにかが飛び抜けていてはダメだ。オーケストラのように、全ての奏者のスキルや楽器の数や配置のバランスが合っていることが重要なのだ。
走行フィーリング
カーブを一つ二つと曲がってみる、「あ、やっぱり911ですね!」と思わず口に出してしまう。これだけモデルチェンジしても、911のフィーリングは同じだ。どのクルマとも違うリアの安定感と、荷重移動一つで動きが変わりやすいところなどは、速度域こそ違うが今の911にも通じるものがある。
ただ、今まで乗った73カレラや911SCなどとは違い、操縦は正直、難しい。いや、これを速く走らせようとするなら、相当のスキルを求められる。
73カレラの方が全然簡単で、思いのママに動く感じは現代の911のようだったが、このナローはそうはいかない。
たとえば、コーナーに差し掛かり、少しアクセル抜いてフロントに荷重をかけて曲がっていく。その際、ある程度の舵角までは、普通の911のような感じなのだが、ある一定の舵角から急に曲率が変わるような印象を受けるのだ。
それは、リアが何となくムズムズと外に出たそうな感覚と言おうか、今のクルマで強いていうと、極端にリアの空気圧を抜いて走っているような感覚に近いような気がする。
借り物なので慎重な運転を心がけてはいたが、これを速く走らせようとするなら、それなりのスキルと慣れが必要だろう。ちょっとやそっとではこの911は心を開いてくれないようだ。
上り坂などはとてもRRのリアの重さが顕著で、しっかりと前に荷重をかけることができないと、ちゃんと走れない。こんなに荷重移動のスキルを求めてくるクルマも他にない。もはやバイクである。
高速域での印象
少し直線でスピードを出してみる。オーナーさんから高速になるとは「フワフワしますよ」と聞かされていたので、かなり身構えていたのだが、確かにピッチングもある。そして、フワン、フワンとした大きな揺れがあるのも確かだ。
しかし、それ以上に私が驚いたのは、このショートホイールベースにもかかわらず、とても直進性が高いことだ。
もっと左右に振られたり、ハンドルをしっかりと握っていないといけないのかと思っていたが、全然、そんな気遣いは不要。普通にビシッと真っ直ぐに走ってくれる。
過去にも何台かクラシック・ポルシェは経験しているが、どれも共通して驚くのは、この直進性の高さだ。あの時代に、しかも、こんなにコンパクトでホイールベースも短いクルマなのに、これを実現できるエンジニアリングには驚きしかない。
911の面白さ
試乗も後半になり、興奮も落ち着いてきたので味わうように走ってみた。背後からはフラット6が奏でる極上の多重奏。左足でクラッチを操作し、右足でアクセルをあおり、長いストロークのシフトでリズミカルにシフトを操作する。
まるで指揮者になったような感覚でクルマに指令を出すと、911はそれに忠実に応えてくれる。もちろん、指揮者が下手くそなら、それなりのフィードバックを返してくれる。
あらためて、今回、この原点ともいえる911から教わったことは、そこに『911の面白さ』があるということだった。
いつかこんな911を駆って旅に出て、佐多岬のメロディーラインや、竜泊ラインを走らせてみたい。運転しながらそんな旅風景が脳裏に浮かぶ911だった。
このブログが気に入ったらフォローしてね!
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。