718ケイマンTの納車から半年経過してどうだった?(前編)

718ケイマンT
レビュー・試乗記

718ケイマンTの納車から約半年が経ち、走行距離も約2000kmを超えた。

慣らし運転が完全に終わっているわけではないが、何回かショートツーリングに行ってきたので、この辺りで現時点での印象をレポートしてみようと思う。

カレラTオーナーだからこそ分かる、718ケイマンTの魅力

718ケイマンTの魅力は何と言っても、そのシャシーの絶妙なセッテイングにある。
標準でPASMスポーツが装着されており、通常のPASMスポーツより1cmほど車高が低く、かつ減衰も締め上げられている。
では、単にPASMスポーツのお陰で、良いと感じるのか?というとそう単純な話ではないのだ。

ケイマンTには『T』ならではのセッテイングの妙がある。

718ケイマンTのホイール

わが家には992のカレラTがあるので、それがよく分かる。
カレラTに乗ると、「同じエンジンのカレラとはシャシーのセッテイングが全然違う」と思うことがよくある。とても軽快で、かつ、しなやか。乗り心地とスポーティーさの絶妙なバランスが素晴らしく、「ポルシェは単に『T』をモデル末期の特別仕様車で作ったのではない」ということがとてもよく分かるのだ。

『T』はツーリングの『T』であることを本当に意識したセッテイングがなされている。こういう手を抜かないところがポルシェの良いところだ。

それと同じことが、ケイマンTにも言える。

ポルシェ911カレラT

992のカレラTを味わってから、ケイマンTに乗ると、「確かにケイマンを『T』にしたら、こうなるわな」と思うことがよくある。
カレラTのセッテイングに通じるものが多く、そのシャシーの軽快さとしなやかさは特筆すべき点だ。硬すぎず、柔らかすぎず、スポーティー過ぎず、ラグジュアリー過ぎず、という「ツーリング好き」「運転好き」のスイートスポットにちゃんと照準を合わせてきている。

街中での印象

エンジンについて言うと、これは通常の2リッターのベースモデルの718と変わらない。

低速でのトルクは正直薄い。街中などでノーマルモードで走ると、どんどんシフトアップしてしまうので、少しトルク不足やレスポンスに不満を感じる場面もあるというのは事実だ。たとえば交差点を曲がる際などはPDKは5速あたりから、自動的に2速や3速までギアを落とし交差点に侵入、ドライバーは安全を確保しながら、ゆっくりと加速していこうとする。こういう場面だと、回転数は1000rpm+αくらいが多く、その時に2速や3速だと加速が鈍く、もう少し機敏に加速してほしいなと思うことがよくある。

718ケイマンTでドライブ

なので、街中ではスポーツモードで走ることをオススメする。最近のポルシェのノーマルモードは、燃費基準達成のためにやや無理をしている感が強く、ノーマルと言うより「エコモード」である。特に718はその傾向が強く、必要以上にPDKはシフトアップする。

本来のあの2リッターエンジンの魅力とユーザビリティを体験したいのなら、スポーツモードこそが「ノーマルモード」と言っても差し支えないと思う。

スポーツモードを選択すると、アイドリング回転数は高くなり、その分、ブーストがかかるまでの時間も短縮される。それに、PDKも一段低いギアを選んでくれるので、まともなギア選択をしてくれるようになる。加速時もしっかりと1速で引っ張って2速へとつなぐので、ある程度、トルクが出ている回転域で運転できるため、運転がしやすい。

718ケイマンT

少し話は脱線するが、718はPDKの故障が多いとよく耳にするが、それはノーマルモードが必要以上に高いギアを選択し、日本の低速域ばかりの街中を走り回ることで、トランスミッションにも熱や負荷がかかることが原因の一つなのではないだろうか?と私は考えている。

現に、ノーマルモードで街中を走ると、ギアが高すぎて718はエンジンがしんどそうにしたり、トランスミッションから一瞬ジャダーを感じることもある。なので、できるだけスポーツモードが、マニュアルシフトでエンジンやトランスミッションに負荷がかからないように運転してあげたほうが良いように思う。

ちなみに、乗り心地はすこぶる良い。992のカレラTよりも良い。
過去に乗ったことがある718ケイマンのPASM無し(18インチ)と比べると、かなり違う。ケイマンTは20インチにPASMスポーツなので、多くの人は乗り心地が悪いと想像するだろうが、それは全くの逆である。ベースのケイマンのPASM無しより車格が2ランクくらい上がったような違いがある。

これは通常のPASM付きのケイマンと比べても、『T』の方が固いはずなのに、心地良く、さらに一歩上質な印象を受けるだろう。

エンジンと音

一方で2000rpm以上で走っている時は、このエンジンは全く問題ない。
むしろ、とても扱いやすく、パワー感も十分以上。これで2リッターの4気筒なのか?と思うほど元気に走ってくれるので、安心してほしい。

718ケイマンT

718のエンジンには「プレコンディショニング」や「ダイナミックブースト」という仕組みがある。前者はスポーツモードまたはスポーツプラスモードがアクティブな時に、ターボチャージャーの効率を最適化。ウエストゲートバルブが閉じ、エンジンの吸気量を増やし、ブースト圧を維持することで、フルスロットル時のエンジンのレスポンスとトルクが向上。

後者はフルアクセルから一時的にアクセルを離した際にも、スロットルバルブを開いたままにして、ブースト圧を維持する機能。その結果、アクセルを再び踏んだ際に、エンジンが自然吸気エンジンのように迅速に反応する機能だ。

このような制御もあってか、ある程度、回転が維持された状態でのエンジンのフィーリングはとても素晴らしい。

本当にレスポンスも良く、忠実に右足の動きと連動。パワーも申し分なく、これで遅いという人はなかなか居ないのではないと思う。むしろ、これ以上、パワーがあっても、ワインディングロードなどでは回せなくなるので、これくらいが丁度良い。

おそらく、素人がサーキットなどで思いっきり回して楽しむには最高に扱いやすく、楽しいポルシェのエンジンの一つではないかと思う。

718ケイマンT

音に関しては、ケイマンTも途中のモデルイヤーから、スポーツエグゾーストが装着できなくなっている。私のケイマンTもスポーツエグゾーストは付いていないし、GPF(ガソリン・パティキュレート・フィルター)も付いている。では静かか?というと決してそんなことはない。

国産スポーツカーなどと比べると、はるかに音量は大きいし、運転していると決して静かなクルマではない。同じ718でもGTS4.0やスパイダーなどの4リッターのNAエンジンの方が、低速域では明確にバルブが閉じられるので、そちらの方が静かに感じる人が多いと思う。

718ケイマンT

音質は4気筒なので、981以前の6気筒の歌うような音は期待できない。ただ、スポーツエグゾースト無しのこのケイマンTの場合、音に雑味がなく、長時間聞いていても嫌なストレスを感じないというのは事実である。ベースのケイマンのスポーツエグゾーストモデルにも乗ったことはあるが、音量は大きいので、気分も盛り上がるが、ちょっとノイジーな感じも否定できない。それと比べると、そのノイジーな部分だけを取り除いた音と思ってもらうと良いだろう。

個人的には、981や991.1の澄んだ音にはさすがに勝てないが、全然、嫌な音ではなく、むしろ回転が高まった時に聞く音はスポーティーでこれならロングツーリングでも長時間聞いていられるというのが感想だ。


後編では、ワインディングロードでのハンドリングについてと、高速道路での高速安定性などについて語っていきたいと思う。

Hiro

Minaの夫です。 ファッションやステータスシンボルのためにクルマは乗りません。運転して楽しく、工業製品として優れ、作り手の意思が感じられるようなクルマを好...

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